到着の翌朝は雨天であった。「ばばさまは雨おんなだ。昨日までずっと晴れてたのに。」娘がむくれている。二人とも傘を持っていない。仕方なく店舗の雨よけを休憩所にして、小走りで傘を買える場所まで向かった。途中のコンビニはまだ閉まっていたので、娘がよく食料品を調達するという大きなスーパーマーケットで傘を購入。ついでに朝飯を買って娘のアパートで食べることにした。
傘を買ったはいいが、巨大スーパーマーケットから娘のアパートまではほとんど傘が必要なかった。スーパーマーケットと屋根付き通路でつながった、Copley Placeとよばれる巨大ショッピングモールを突っ切った出口の目の前に彼女の住むアパートは建っていたからだ。 |
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巨大スーパーマーケットの入り口にはハロウィンのかぼちゃが並ぶ |
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巨大ショッピングモール |
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ボストンの巨大ショッピングモールを抜けると娘のアパートがあった。管理の行き届いたオートロックシステム。地上階にはカフェも入っている。 |
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娘が住むアパートの入り口と娘の部屋。2LDKを3名でシェアリングしている。娘の部屋は$780=約\85,800/月。破格の安値だと娘は言い張るが支払う私からしてみれば・・・。安全を金で買っていると思って諦める。 |
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その日はせっかくの雨降りなのでボストン美術館で終日過ごそうということになった。美術館まではグリーンラインで一本。時間もそれほどかからない。 ボストン美術館は水曜日が無料だそうで(通常は大人一名$17)、娘は一度友人と共に水曜日の入館を狙ったが、欧州からの旅行客で混雑し、結局入れなかったらしい。 その日は日曜日だったため、多少は混雑していたが、ときどき上野などで催されるボストン美術館展などの展覧会の混雑と比べると大したことはなかった。 今回、初めて観てみるつもりだった浮世絵がなかったのでおかしいなぁと思っていたら何と日本に出張中。今年の1月から日本全国を巡回していたのであった。 ルーブルにモナリザを観に行ったらたまたま日本に出張中だったという友人の脱力感を実感した。
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ニューヨークは近い |
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グリーンラインのホーム。ボストンの地下鉄は米国経済を象徴しているような衰退の雰囲気漂う設備。 |
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***ボストン美術館***
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館内のオブジェのセンスは理解できず。 |
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一階の大部分と二階の一部は世界中から集めた歴史の残骸展示エリア。もちろん日本コーナーもありました。 |
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二階のヨーロッパ美術エリア。ボストンを訪れたついでにモネ、ゴーギャン、ピサロ、ターナー、ゴッホ、ルノワール等がこんなにゆっくり鑑賞できるとは。大きな収穫でした。 |
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レッドソックスを描いたものも展示されていた |
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なんとこんなところに松坂が!! |
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美術館を出てCopleyに戻ったときには既に夕方近くなっていた。娘が教えてくれたダックツアーがまだ終わっていなかったので、参加してみようということになった。ダックツアーは水陸両用車に乗ってボストンの街を観光するもの。道路では普通のタイヤ付きの車だが川に入るときは船になる。合図があったら乗客は皆でぐわっぐわっとアヒルの鳴きまねをしなければいけない。鳴きまねが恥ずかしい人用にアヒルの笛が販売されていて、鳴きまねの代わりにその笛を吹けばいいことになっている。 ダックツアー乗り場でチケットを購入しようとしたら、購入場所は少し離れた別の建物にあることがわかり、そちらへと向かう。チケット売り場はすぐに見つかった。私がバッグを探ってカードを取り出そうとしていたとき、チケット売り場に近づいていた娘が「May I help you?」とカウンター内部から声をかけられた。彼女は返事もせずに私の顔をみる。まただ。 「いいかげんに私が答えられないときぐらい自分で話してよ」と私。「そうやって試されるの嫌なんだよね。」と娘。「試してるんじゃなくて困ってるの!何で留学してるのかわからないよ。積極的に話さないと意味ないよ。」「もういいよ。ダックツアーには参加しない。」 出た。娘のぷち切れ。
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寒々しいクリスチャンサイエンスセンター |
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「ダックツアー、参加しないの?」私はかなりがっかりする。観光客としてボストンの街でぐわぐわとアヒルの鳴きまねをするなんて滅多に体験できるものではない。カウンターの女性がやれやれと目の端で手振りする。「私はボストンの街を知ってるもん!!(だから観光する必要もないし文句言われてまで親に付き合う義務もない)」娘に睨まれた。 娘は怒ってどんどん先を急ぐ。方向は自分のアパートを向いている。私の落胆も徐々に怒りに変わってきた。5月末からの留学に備え、私はあらかじめ3か月分の学費とホームステイ費用を支払っていた。彼女はタイ人の友人とルームシェアをしたいからと、僅か一ヶ月でホームステイを解約し、二か月分の返金を受け取った。理由は学校が遠いからと、門限があり自由がきかないからであった。彼女はルームシェアのほうがよほど安いと言いながら、結局食費やその他家具類の購入でホームステイの返金額を2ヶ月間で全額使い切った。挙句の果てにその2ヶ月でルームシェアを解消した。理由はアパートが古くてベッドバグが出るからというものだった。今後はボストンの寒い冬に備えてさらに色々なものが必要だと訴えていた。 「高いお金払ってるのにこんなに消極的じゃ困ったもんだね。いつも誰かに英語を話してもらってるわけ?」私の言葉がトリガーとなり、彼女は「帰る」と言い放ち、さらに足早になった。
日本からわざわざ冬服やらブーツやらと共に一ヶ月分の家賃を現金で持参してきてこの扱いかよ。親を甘くみるのもいい加減にしろ。遠ざかる娘の背中を多くの通行人越しに見送りながら悲しみが沸き起こってきて泣きたくなった。
曇り空の寒さにも煽り立てられるようにホテルに戻る。言いようのない憂鬱さに食欲もないまま、まだ午後5時を過ぎたばかりだというのに、時差ボケが解消できないおそれも無視して寝てしまった。
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ホシムクドリ。ボストンをはじめ周辺のさまざまな場所で見かけた。 |
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