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娘の留学先へ:ボストン近郊旅行
*** 五日目・ナンタケット島でのバードウォッチング ***
 
 


朝、トリの声で目が覚めた。地窓をそっと押し上げ、庭を観察する。二階なので木に遊ぶトリたちが目の高さにくつろぎ、さえずっている。空気がひんやりし過ぎてはいるが気持ちのいい朝である。

朝食は館内ではなく、指定された二つのレストランのどちらかを選ぶ。9ドルまではB&Bから食事代が支給されているという仕組みだ。8時を過ぎた頃、さすがにレストランも空いているだろうと思って出かけた。結果は1軒のみ空いていて、もう1軒は9時開店であった。のんびりしている。
朝食に9ドルは十分なようだが、ここはナンタケット。ボストン同様、何もかもが高い。朝食プレートと紅茶をオーダーしただけで、かるく10ドルを超える。さらにチップを上乗せする必要がある。
 
普通のスズメそっくりですが、日本のスズメ(Tree Sparrow)は東海岸にはいないので、イエスズメ(House Sparrow)と想定
 
わからないのでイエスズメ・幼鳥ってことで
 
レタスが一枚でもあれば・・と思える朝食


ほんの小さい島だというので自転車で十分だろう。港にレンタサイクルの店がいくつか並んでいたのをチェック済みだったので、朝食後に借りることにした。一日中、自転車で島中を走り回りながらバードウォッチをするのである。小さく薄っぺらな白黒の紙のポケットブックなのに15.95ドルもしたAndrews & Blackshawの、Birding Nantucket 2007 Editionにてバードウォッチに焦点を当てた島巡りの順番は抑えてある。
貸し自転車屋でもらった地図を片手に、まずはブラントポイント灯台近くのThe Boatyardをめざす。あらゆる種類のチドリやシギなどの水鳥が見られるようだ。

*貸し自転車:一日26.25ドル。

ブラントポイント灯台かと思ったら
 
こっちがホンモノ
 
ヒトケのないビーチ
 
灯台周辺の植物
 
散歩中の犬には逃げても散歩中の人間には逃げなかった子
 
Pectoral sandpiper, アメリカウズラシギ
 
灯台そばに建つ、多屋根・多窓の家


The Boatyardでのトリの種類は本にあるほど多くなかった。次に向かう場所はEel Pointである。ナンタケット島の西の突端のひとつで、すぐ南側にはもうひとつのSmith's Pointがある。この辺りでは何が見られるのか、特に書かれていなかったので、とにかく行ってから探すことにした。時刻はまだ午前10時。小さな島なのであせることもなく、トリの声が聞こえたら停止することを繰り返しながら、ゆっくりとペダルをこぐ。

時々停止しながら大きな家々が建つ住宅地をゆっくりと通り抜ける
 
Eel pointに着いたかなと思ったらまたヒトケのないビーチ
 
今はカモメのためのビーチ
 
と思ったらスイミング犬発見


住宅地の中で赤い鳥が二羽、道路を横切り、藪の中に入って行った。藪をのぞいてみたのだが目立つ色なのに赤がまるで見えない。今まで聞いたことのないきれいな声だけが聞こえた。

しばらく走ると行き止まりになった。仕方なく少し戻り、丘をひとつ登ったらCliff RDという車道に出た。脇のサイクリングロードに入り、期せずして本格的なサイクリングが始まってしまった。

最初は気持ち良く走っていたが、道の起伏を何度かやり過ごしていくうちに汗が止まらなくなり、だんだん暑くなってきた。一本しか持ってきていない水も最後の一滴を飲みほしてしまうが、周囲には自然が広がっているだけで他に何もない。店はおろか自動販売機もない。下り坂ではなるべくブレーキをかけないようにして、上り坂に備える。ナンタケット島には何しに来たのかと尋ねられたら、今なら迷わず運動しに来たと答えられるであろう。もうトリもくそもなくなってきた。トリがなんだ。

のどが渇いた。頭がくらくらする。昨夜のワインも手伝って脱水症状の始まりだ。

だいたい何で店の一つもないのだ。この辺りの人々は一体どこで食料品の買い出しなどをするのだ。ちょっとした買い物でもいちいち町まで行くのだろうか。ナンタケットびとたちの生活にも腹がたってくる。道は途中からCliff RDからMADAKET RDに移行している。すれ違う人々は皆、ヘルメットをかぶり、服装も本格的なサイクリングの装備だ。トリを見に来ただけなので私は近所に散歩に来ましたといった服装だ。
そしてかなり走った頃、ふいにサイクリングロードが途切れた。三叉路である。どっちに行けばよいのだ。
どっちに行ってもどうせ自販の一台もないかと思うと疲労を超えて不安になってきた。このまま脱水症状でぶったおれるわけにはいかない。結局どこにも到達できなかったが元来た道を戻ろう。町に戻ってランチをとり、水を補給して出直すのだ!!今度は反対方向に・・・。小さいと思っていた島は案外広い。このままだとどこにも到達できないまま、一日が終わってしまう。

赤い鳥を追って藪に入ると、トトロに続きそうな道を発見した
 
自然が続くが
 
トリなどもうどうでもよい


戻りの道は自転車の選手になったつもりでただひたすらペダルをこいだ。行きに気持ちの良かった下り坂は戻りでは反対に苦しみとなる。普段、デスクワークで全然運動しないので、完全に運動不足である。町まであと何マイルとか道路標識でもあれば励みにもなるのだが、そのあたりは島の小ささが必要性を感じさせないのだろう。全くない。自動車だとあっという間に一周できそうだが、自転車だとそうもいかない。レンタカーにすればよかった。失敗だった。

多くの起伏を消化し、ふいに走りにくい石畳が現れたら、いつのまにか町であった。救われる思いだった。

Straight Wharfに自転車を止め、ランチで賑わうオープンカフェに入る。クラムチャウダーとシュリンプカクテルをオーダーし、午後のサイクリングの作戦を練る。お気楽なバードウォッチャーからアスリートへの転身である。

北端のGreat Point灯台の近辺には、ぜひ見てみたいLeast Tern、アメリカコアジサシの絵が描かれているので、必ず行かなければならない。

クラムチャウダー☆
 
シュリンプカクテルのエビのサイズにはいろいろあるがアメリカのはびっぐ☆
 
ナンタケット島の地図


さて、地図も確認した。ペットボトルの水も2本調達した。今度こそ北米でしか見られないようなトリ見を主な目的に、アスリートとして島の東を探検するのだ。町を出るまでは石畳が大変だったが、途中で車道、さらにサイクリングロードに入ってからは快適な走行が続いた、とも言えず、相変わらず苦しい上り坂に苦労しながら、ただひたすら車輪を進めていった。Polpis RDを2時間近くも走った頃、ようやくGreat Pointへと続くWauwinet RDとの分岐点まで来た。この道路にはサイクリングロードがない。車道をひたすら進むしかない。この道路をさらに1時間ほど走った頃、ようやくWauwinetというホテルがちらほらしている場所に出た。そこからの道路は舗装されていない。時折四輪駆動車が通る、砂の道であった。
犬の散歩の人とすれ違ったので、「ここから灯台までは遠いんですか」と尋ねてみた。「ここから灯台?遠いねぇ。6マイルはあるよ。」約10kmもあるということだ。「こんな道だから自転車は無理だね。歩けば行けるよ。」
片道で10kmも歩けば日没までに町に戻れないだろう。諦めて元来た道を戻るしかない。せめて分岐点から先に進んでもう一つの灯台をみて、Siasconsetをぐるりと回って地図上、ほぼ直線のMilestone RDを通って町へ戻ろうと思った。

またしても不思議な植物が密生している
 
目的のアメリカコアジサシがいるかもしれないバードウォッチポイントへと続く道、ここから6マイル
 
Wauwinetからの湾の眺め


戻る途中、電線に止まっている鳥は、ナゲキバトかホシムクドリだけであった。Polpis RDのサイクリングロードに戻った時は少しほっとした。分岐点から元来た道を町に戻るのは楽なのだが、あまりにも安易過ぎて気に入らない。迷わず三つ目の灯台の方向に走り始めた。ここからは頻繁に地図を見ながら走った。何か目印があるたびに、まだここかとため息をつくことを繰り返す。朝からこぎ続けているので既に運動不足の足が痛い。自転車走行による疲労と変わり映えのしない景色にうんざりしながら、全く私は一体何をやっているんだと自分に呆れてもいた。

 
景色に違和感をおぼえて急ブレーキをかけ少し戻ると・・・Great Blue Heron, オオアオサギが佇んでいました


サンカティヘッド灯台がようやく見えてきた。この灯台の付近にPiping Plover, フエコチドリがいるかもしれないのだが、もう時間がない。まだ折り返し地点にすら到達していないのに時刻は既に午後4時をまわっている。
貸し自転車屋が閉まるのは午後5時半だが、何時になってもしっかり鍵をかけて店の裏に返しておいてくれればそれでいいと言っていた。どんなに急いでも5時半までに町に戻れることはないだろう。ただ、少なくとも暗くなる前には戻りたい。周囲に何もない夜道を戻るのは厳しい。残念だったがしばらく見え隠れする灯台を左手に惜しみながら先を急ぐ。折り返し地点のSiasconsetはもう目と鼻の先だ。

サンカティヘッド灯台
 
前方に何かがひょいと現れたのでカメラをズームして覗いてみたらリスであった。何事もなさそうなのに、かなりびっくりしている。
 
別に何事も起こっていないようなのにどうしたというのか。
 
びっくりしている


Siasconsetは町になっていた。雑貨屋でMilestone RDへの方向を尋ね、ほぼ直線の道路をただひたすら走った。直線は距離的には近いのだが、いつまでも続く道がずっと先まで見えるのでかえって疲れてしまう。一体どこまで続くのだろう。このまま森や平原が延々と続き、町には永遠に辿りつかないのではないかと思えるくらいに道は単調で長い。8段階あるギヤチェンジも、もうほとんど使わない。上り坂は完全に放棄したからだ。疲れ切ってしまったのである。前方を向くと、その直線距離に途方に暮れるので、途中から日が落ちかかった周囲の森だけを見ながら進んだ。他の自転車にも時折追い越された。そしてまだまだ道は続いていた。

ところが長い長い自転車の旅も、ついに終わりがやってきた。町を出てすぐの、行きはPolpis RDを選択したロータリーにようやく辿りついたのだ。

ゴルフ場そばで打ち捨てられた家
 
ムーアに打ち捨てられたボート
 
思い出とある、このボートにはどんな思いでがつまっているのだろう


地図で確認したら、この日の自転車走行距離は50kmを超えていた。相当な距離である。ただただ無謀であった。結局、トリ本のバードウォッチングポイントには最初の一か所にしか行けなかったし、通り過ぎても時間がなくてトリを探す暇など全くなかった。途中で偶然見つけたオオアオサギさんには感謝しなくてはなりません。

自転車を返した頃には真っ暗とはいえないまでも、既に日は沈んでいた。運動もしたし、本日はまともに夕飯でも食べようかと思った。クラムチャウダーも捨てがたいが、宿の近くにある寿司屋が初日から妙に気になっていたので、海外で日本食を試すということは大冒険なのだが、思い切って寿司を食べてみることにした。

店のドアを開け、「一名ですけど」と伝えたら、大丈夫ですよとテーブルに通してくれる。店員は日本人ではないがメニューのほとんどが日本語だ(魚の名前は日本語ではなかったかもしれません)。
お浸しとマグロ、サーモン、ウニのにぎりを頼んだ。ウニは切れていると言われ、イクラに変えた。白ワインを頼んだら、うちはB.Y.O.B.(Bring Your Own Bottles)なので店には酒を置いていないと言われた。買ってきてもいいかと尋ねると、メイン通りのMorryという店を教えてくれた。すぐに見つかったMorryで白ワインのハーフボトルを一つ買い、店に戻ると、オーダーした食べ物は既にテーブルに出されていた。
空腹だったことも原因かもしれないが、食事はものすごく美味しく思えた。日本人を一人も見かけない、日本からこれほど離れたこの島で、本物の寿司を食べられるとは思っていなかったので(カリフォルニアロールみたいに変形しているだけかと想像していた)、自転車の苦労も忘れ、満たされた気分で宿に戻った。

お浸しは醤油ではなくゴマドレで味付けされていた。美味!
 
にぎりはネタが大きくてしゃりも普通の日本の米が使われていた。美味!
 
ナンタケット島の寿司屋、Sushi by Yoshiの外観
 


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